英文解剖学

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小ネタ That節の役割 語順の変化を見抜け

 

面白い文章が引用されていたので記事にしてみます。

引用部分は文章の一部なので関連する部分のみ引用します。

 

Men who explain thingsという文章の一部で、いわゆるマンスプレイニング(男性が女性・子供に対して知識をひけらかす現象)という概念の起源に当たるような文章です。

 

ある日、作家のRebecca Solnitが友人のSallieと参加したパーティーから帰ろうとしたところで、Rebeccaが作家だと知った主催者に声をかけられ、著書の内容について聞かれます。著者がEadweard Muybridgeの名前を出したところで、主催者が “And have you heard about the very important Muybridge book that came out this year?”と得意げに割って入り「Rebeccaが知っておくべき」その「重要な本」について説明し続けました。そこで友人のSallieがその本はRebeccaの著作だと伝えますが、主催者の男性にはピンと来なかったようです。

But he just continued on his way. She had to say, “That’s her book” three or four times before he finally took it in. And then, as if in a 19th century novel, he went ashen. That I was indeed the author of the very important book it turned out he hadn’t read, just read about in the New York Times Book Review a few months earlier, so confused the neat categories into which his world was sorted that he was stunned speechless -- for a moment, before he began holding forth again. Being women, we were politely out of earshot before we started laughing.

問題はこの段落の3文目です。

語順の変化を倒置(=主語と(助)動詞の倒置)と呼ぶか前置などなどと呼ぶかどうかはともかく、あなたはこの文章の構造を見抜けるでしょうか。正解は続きから・・・よく考えてみてください。

 

 0^

 

www.latimes.com

 

 

以下、正解です。

一種のクイズなので結論を最初に書くことはいたしません。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■ここから正解

 

That I was indeed the author of the very important book it turned out he hadn’t read, just read about in the New York Times Book Review a few months earlier

 

この大きなThat節が名詞節として主語の役割をしています。

the very important bookの後をよく見ると、it turned out he hadn’t read, just read aboutとSVが続いており、特にreadやread aboutの目的語が欠けて見えます。実は、ここは一種の連鎖関係詞になっており、"it turned out (that) he hadn't read, just read about ..." it turned out that節のthat節の中で、readやaboutの目的語となる"the very important book"が抜き出されているわけです。

 

the book (that) he read                                   「彼が読んだ本」

the book (that) I thought he read                  「彼が読んだと私が思っている本

the book (that) it turned out he read             「彼が読んだと判明した本」

 

he hadn't readとjust read about ... がコンマだけで繋がれていますが、これは当ブログおなじみasyndetonですね。(自然に出会う表現だということもわかりますね。)

 

tmneverdies.hatenablog.com

 

, so confused the neat categories into which his world was sorted

 節の切れ目のコンマを挟み、他動詞confusedが述語動詞となります。

「著者は女性で、作家なのに自分の本に関係する『今年出た重要な本』についても知らない教わる側だ、自分は知識のある男性だから無知な女性に教えてあげる側だ。」とまでパーティーの主催者が考えていたかは分かりませんが、彼の行動の背景にある世界観というか世間の人・物事に対するカテゴリわけ(偏見)が、「自分が得意げに(知ったかぶりして)話していた『重要な本』の著者が目の前のRebeccaだ」という事実によって混乱させられたというわけです。

 

that he was stunned speechless -- for a moment, before he began holding forth

ここまで来ればわかるでしょうが、このthatはso ... that...構文で副詞節を導く接続詞のthatです。that節はso confusedのsoに対応し、どれくらい(どんな結果をもたらすくらい) confuseしたのかを示しています。

このso ... that ... 構文は形からわかるように、soが直接に動詞 confusedを修飾しており、"so that ..."ではなく、"so 形容詞/副詞 that ..."に近いものです。

 

◾️that節の役割

名詞・形容詞・副詞の役割があるわけですが、形容詞節となるのは主に関係詞節(や同格節をいれることもあり)、副詞節もso  that 構文やsuch that構文など特殊な用法でしか現れません。あとは名詞節ですが、主語・目的語・補語などの役割をすることがあります。

 

 

 ◾️it turned out that のthat節が前置された説

it turned out that ...のthat節が文頭に来たと考えた方もいるかもしれませんが、それだとあまりうまく行きません。

that節が文頭に来る前置や関係詞節(he hadn't...)が先行詞(この解釈ではthe very important book)と離れること自体はありえるかもしれませんが、that節をわざわざ前置させておいて中身のthe very important bookと関係詞節を分離するとなるとかなり分かりづらくなります。

また、この解釈ではso confusedが主語のない述語動詞になるのを防ぐため、so confusedがthe very important bookを先行詞とする関係詞節内にあるとし、he hadn't read, just reading about , so confused the neat categoriesが等位と考えないといけません。この場合so confused の主語は先行詞the very important bookとなりますが、主催者はそもそもその本を読んでいないようなので文脈に合いません。

 

◾️連鎖関係詞の問題

主語にあたるthat節が長すぎる上に、連鎖関係詞節のhe hadn't ... , just read ...がコンマで区切られているため、述語動詞のはずの (so ) confusedが関係詞節の中か外かわかりにくいということがあります。

連鎖関係詞節の一種としてit turn out (that) ...が使用されることもあるというのも覚えておくと良いと思います。

 

◾️逆さso that構文

また、文頭のthat節が副詞節として使われるパターンとして so that構文のいわばthat節に当たる部分が前に来て主従が逆転している場合があります。以下の実例を見てください。

In the 2020 election, by contrast, the Trump team had ample opportunity to challenge the results in the courts: in fact, they did so in every battleground state, filing dozens of lawsuits, and their attempts were rejected in scathing decisions by judge after judge, including Trump's own appointees, so risible was the alleged evidence of fraud that they offered.

https://physics.nyu.edu/faculty/sokal/alternative_facts.html

so risible was ...の部分は主語とbe動詞が倒置しています。

Sherlock Holmesなどの古い文章にはよく出てくる形ですが、上記引用文は2021年に書かれた現代の文章です。 

ただし、この場合文頭にthatが来ないことがほとんどなので、今回問題としている文には当てはまりませんし、そもそもsoに対応するthat節は別に後ろのほうにあります。

 

◾️語順の変化

ありません。

 

 

 ◾️まとめ

私は元のエッセイについて、少し読み難い文章だと思いましたが、いかがだったでしょうか。

誤読には2種類あると考えています。

①知らない知識のために解けない問題

②単に読解ミスで解けない問題

 

いずれにせよ、間違えたら潔く「敗北」を認め、①であれば知識を身につけ、②であれば読解ミスのクセや不注意を改善しましょう。英語を学べば学ぶほど「敗北」を教えてくれる英文は少なくなります。