英文解剖学

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such ... as ? or similar ... as? That is the question.

野村勇介先生の英語勉強法.jpというYoutubeチャンネルでは,初心者が間違いやすい文の構造を解説する動画がアップロードされています.動画のテンポがよく,解説も簡潔に・わかりやすくポイントがまとまっており,参考にさせていただいております.

 

その動画の中で,結果的に訳文は正しいものの,やや解説に誤りがあるのではないかという部分があり,文脈の読み方や語法の点で興味深く感じたため記事を作成することとしました.

 

www.youtube.com

 

“Temperature and rotation period are thought to be the major ingredients for the dynamo inside the star, which generates its magnetic field, and eventually the number and size of the spots causing the brightness to vary. Finding such stars with very similar parameters as our sun but being five times more variable was surprising,” Reinhold said.

jp.reuters.com

 

Reinhold氏の発言の一部を切り取った部分からの出題のようです.

当初の動画ではポイント①として下線部では"such A as B"の関係がある,つまり"(as) our stars"が"such stars"の例になっているとされていました.

 

今回の論点は,suchは何を指しているのか? asはどういった役割を持っているのか?ということです.

 

■結論① similar ... as が相関して使われることがある(誤用とされることが多い)

■結論② suchは問題の文では調査対象となった星々を指しており, "with ... but being ..."はそうした星の性質を説明していると考えられる

 

まずは簡単に記事の内容を説明します.

 

 Researchers said on Thursday that an examination of 369 stars similar to the sun in surface temperatures, size and rotation period - it takes the sun about 24-1/2 days to rotate once on its axis - showed that they displayed on average five times more brightness variability than the sun.

 

太陽と表面温度・サイズ・自転周期が類似した369個の星を調査したところ,平均して太陽の約5倍の輝度変化がみられたという内容です.

 

下線部の前文では,表面温度や自転周期が恒星ダイナモを構成する主要な要素と考えられており,恒星ダイナモ黒点のサイズや数に影響し,結果として輝度を変化させることが説明されています.

 

下線部では,文脈を考慮すると表面温度や自転周期が輝度変化に影響する要因と考えられていたことから,それらの点で太陽と類似していながら,星の輝度変化が太陽の5倍もある星を発見できたことは驚きだと述べられています.

 

suchが文全体で何を参照しているか という解釈は大きく分けて2通りあります.

解釈1. such (stars)がこの文以前に説明された性質(星)を指している
解釈2. such (stars)がこの文中で説明されている性質(星)を指している

 

■解釈1.の場合,当然 "with ...as our sun"というフレーズ中の"our sun"は"such stars"の例にはなりません.
もっとも,引用文ではsuchの前方にsuchの参照先がなく, "with ... but being ..." という部分が詳しく星の性質を説明していますから,私は当初2.の方が適切だと考えました.後述しますが,最終的に解釈1.の方が正しいと考えるようになりました.


■解釈2.の解釈は大きく3つに分けられます
解釈2A suchは"as our sun"のみを参照している
解釈2B suchは 文全体では"with ... but being ..."を参照し,"with ... as our sun"の内部では "as our sun"を参照している (おそらく野村先生の解釈)
2C suchは"with ... but being ..."の部分のみを参照している(私の当初の解釈)


解釈2Aが誤りなのは,"as our sun"を"with ... variable"と"was surprising"の後に移動した場合,成立しなくなることからも分かります(asをsimilar ... asとmore ...times thanの前置詞を兼用する破格とすれば可能かもしれませんがその場合実質2Cの解釈になります).
ポイント解説だけ見ると野村先生の解説は解釈2Aにも見えますが,先生の訳文を考慮すると解釈2Bに近いと考えました.

 

解釈2Bの場合,suchが文全体では"with ... but being ..."の示す性質(を持った星)を指していることになりますが,"with ... as our sun"というフレーズの中では"as our sun"を指していることになってしまいます.
解釈2Bを関係詞節に書き換えるとましになるとは思いますが("which(=such stars) have very similar parameters as our sun"「例えば太陽のような,似通ったパラメータを持った星」),suchが文全体では"with ...but being"を,"which ..."の中では"as our sun"を,二重に参照するという問題は変わりません.また,この解釈だと"very similar parameters"のsimilarが何と似ているかという部分を文脈から復元すると "with very similar parameters (to our sun's parameters) as our sun" となりやや回りくどくなります

■一方,解釈2Cを採用した場合,"with ... "の中でのasの役割が問題になりますが,"similar"という形容詞とasという前置詞は(誤用とする人もいるが)しばしば相関して使用されることを考慮すると,"with parameters similar to our sun's parameters"という解釈が成り立ちます.この場合,suchの二重の参照の問題はありませんし,asの文中での役割も明確になります.

 

参考までにsimilar とasが併用されている例(the same asからの連想かもしれません)

I quickly found a lot of people with similar interests as me, and they were just as intense about the things they like as I was.”

 

Texas A&M Math Major Reflects On Aggie Experience - Texas A&M Today

 

以上の理由からポイント①及び解釈2A・2Bは誤りだと考えました.

 

■解釈1. 及び解釈 2C再考

解釈2Cの難点は,suchの参照先がsuch以降にあるとき,通常は前置詞asや接続詞thatなどの特徴的な表現を伴うことが多いというところです.

当初は引用されたReinhold氏の発言中にsuchの参照先がないことから,suchの参照先を仮に"with ... but being ..."としましたが,本当にそれでよいのかという疑問が生まれます.

また,仮に解釈2Cが正しいとすれば,一つでもそのような性質を持った星(太陽と類似しているにもかかわらず輝度変化が多い)を見つければsurprisingと述べていることになります.論理的にありえなくはないとはいえ,この記事は太陽と類似した星を369個調べたところ,平均して輝度変化が太陽の五倍だとわかったという記事ですから,such starsは調査対象となった星々のことを参照していると考え,解釈1を採用した方が合理的です."with ... but being ..."はそのような星々の性質を説明し,なぜsurprisingなのかという理由付けにもなっていると考えた方がよいでしょう.

 

以上の思考を経て,最終的に「解釈1. such (stars)がこの文以前に説明された性質(星)を指している」という解釈を選択しました."such stars with very similar parameters as our sun but being five times more variable"全体が,「太陽と類似したパラメータを持つにもかかわらず(太陽と比較して)平均5倍の輝度変化のある(今回の研究対象のような)星」」を表していると考えました.

 

解釈1を採用した場合も,"similar"という形容詞とasという前置詞が相関して使用されるという点は変わりません.

 

上記解説をコメントしたところ,スタッフの方から動画の内容について再考し再uploadするとのお返事をいただきました.再度uploadされればこの記事でも動画を紹介いたします.

(2020年5月13日追記)

野村勇介先生に当記事をご紹介いただきました。

反論を受けたとき、積極的に誤りを認めることは当然のようですが、実際にできる方は多くないと思います。特に、英語教師は一種の信用で成り立っている商売ということもあって、まともに反論せず誤魔化したり、よくても黙殺する方も多いのではないでしょうか。誤解されたくないのですが、このブログで批判対象としているのは基本的には個人の資質ではなく、誤りの方です。どんなに英語力の高い方でも間違うことはあります。例えば、他の記事で批判した薬袋先生や妹尾先生、buveryさんの間違いや疑問に思われる点に対して、私があらゆる論点を想定して批判できるのは彼らが自分の思考過程を詳しく紹介しているからです。そもそも思考過程を論理的に説明していなかったり、リズムやフィーリングで分かるだろうと誤魔化したり、反論に対して嫌味を書くが論理的な反論をしないといったことをすればファンの目は誤魔化せるかもしれませんが、その解説には何の価値もありません。ですから、私は英語の先生の解説の価値は、解説自体の質と反論された際の対応の二点で決まると考えています。

野村先生による今回の対応はその点好感が持てるものであり、信頼できると感じました。